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「逆島、前にでてこい」  進駐官養成高校ではどんなに無茶な命令でも返事はひとつだった。腹から響く声をだす。 「はいっ」  タツオは教壇の脇で直立不動の姿勢をとった。月岡先生はたたんだ新聞紙を、左手の義手にぱんぱんと打ちつけている。 「これで人を殺す方法をあげなさい」  教室中の視線が自分に集まっていた。なぜ、こういうときに選ばれてしまうのだろうか。タツオは名門の家に生まれたことが憎らしかった。 「えー、寝ている敵の顔に濡らした新聞紙をかぶせるとかでありますか、先生」  月岡鬼斎はにやりと笑った。 「呼吸を断つか。それも不可能ではない。だが、時間がかかる。その時間は本来、大切な逃走のための時間だ」  タツオは黙ってうなずいた。この教官は暗殺の技法を講義しているのだ。自分の命を守り、任務を果たして帰還するためには、一秒でも惜しい。
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