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無言のままリビングに戻った由紀子は、ふうっとひとつため息を吐き出すと、ベランダのアネモネを見つめている。
「アネモネの花言葉ってさ…
薄れゆく希望の他にもあるの、麻里子は知ってる?」
そう聞いて来た由紀子に、私は黙ったまま彼女を見つめた。
この状況と花言葉がどう関係あるのだろう。
しばし黙っていた由紀子は再び語り出す。
「…無邪気と清純無垢、だよ。
麻里子はいくつになっても無邪気で清純無垢で…。
そんな麻里子がずっと羨ましかった…。
でも結局、私はどうあがいても麻里子には勝てそうにないよ」
悲しそうに呟いた由紀子は、ゆっくりと開いていた吐き出し窓のガラスを閉めた。
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