1930人が本棚に入れています
本棚に追加
「…………ブルガリブラック」
証の呟いた言葉がよく聞き取れず、柚子は黙って眉をひそめた。
証はゆっくりと腕を組む。
「スーパーしか行かなかったお前に、なんでそんな男物の香水の匂いが染み付いてんだ」
「………………!」
柚子はギクッと大きく体を震わせた。
不快に感じたあの甘い香り。
あの香りがまさか自分に染み付き、それを証に言い当てられるなんて。
「…………あ、あの……」
柚子の体が小刻みに震えだす。
証は逸らすことなく柚子の顔を見据えた。
「……甘ったるい匂いさせやがって」
「………………」
「──── 言え。誰と会ってた?」
柚子は観念して目を閉じた。
黙っていられることなら黙っていたかった。
だが、今の証にごまかしはきかないことは柚子が一番よくわかっていた。
しばらくの逡巡の後、柚子はためらいがちに口を開いた。
「………あの、パーティーで会った、是枝って人……」
証は大きく目を見張る。
「………是枝……だと……?」
最初のコメントを投稿しよう!