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後悔を覚えて柚子はドアを開けようとした。
慌てて是枝はそれを制止する。
「え、なんでなんで。まだ何にも話してないじゃん」
「…………………」
柚子は警戒心を剥き出しにして是枝を振り返った。
「………やっぱり帰ります」
「ちょっと待ってって。車、発進させないから。……それならいいでしょ」
「………………」
柚子は唇を噛み締めて是枝を見つめた。
いつでもドアを開けられるように、ノブを握りしめる。
柚子が出ていかないのを確認してから、是枝はふっと息をついた。
しかし直後、柚子の全身を眺めてクスッと笑った。
「しっかしまた、あの夜とは全然印象が違うんだね」
「………………!」
柚子の顔がカッと赤らむ。
マンションの外に出ることもないので、Tシャツにジーパンというラフの極みだった。
しかも買い物袋からはご丁寧にネギが顔を覗かせている。
なかなか堂に入った主婦っぷりだ。
あの夜は人生で一番着飾った日だったので、落差が激しいのは仕方がない話なのだが……。
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