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「………そっか。あいつホントに柚子ちゃんには優しいんだ。……あいつのこと優しいなんて言う女の子初めて見たなぁ」
「………………」
「………でもさ、それって本当に柚子ちゃんのこと愛してるからだと思う?」
そこで是枝は手を伸ばし、柚子の長い髪を一房つまんだ。
そうして柚子の顔を間近で覗き込み、意味ありげに笑った。
「………それとも、罪滅ぼしだと思う?」
柚子はゆっくりと瞠目した。
意味がわからずに是枝の顔を凝視する。
(…………罪……滅ぼし……?)
何故か動揺して、柚子は小さく身じろぎした。
「何の……話……ですか?」
柚子の声が震えているのに気付き、是枝はスッと笑いを収めた。
じっと射抜くように柚子の瞳を見据える。
「え、もしかして……柚子ちゃん、知らないの?」
「………………」
柚子が返答に窮していると、是枝はくっと吹き出した。
柚子の髪をつまんだまま、さも可笑しそうに肩を揺すって笑う。
「………あー、そっか。そうなんだ、知らないんだ。そりゃそうだよね。でなきゃ結婚なんかしないよね」
「………………」
柚子はクラリと軽い眩暈に襲われた。
甘ったるい匂いに頭が麻痺したように、思考回路が働かない。
一体、この男は何を言っているのだろう。
是枝の肩越しに垣根に咲く夕顔の花が見えた。
………ああ、もうそんな時間なんだ。
早く。
早く帰って夕飯の支度をしなければ。
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