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柚子は自分の髪を握っている是枝の手をパシッと振り払った。
これ以上、この男と同じ空間にいることが耐えられなかった。
「─────帰ります」
短くそう言うと柚子は助手席のドアを開け放った。
「あ、柚子ちゃん!」
車を降りた柚子の背中に是枝は声をかけた。
柚子は車から数歩離れた場所で是枝を振り返る。
是枝は運転席から覗き込むように柚子を見上げた。
「柚子ちゃんてS大なんだよね? 俺、K大なんだ。よかったら今度、合コンしない?」
「……………しません!!」
最後の最後までチャラい是枝の言葉にうんざりして、柚子は叩き付けるように言ってからクルッと踵を返した。
全速力でマンションに向かって駆ける。
握り締めている笹の葉が耳元でしゃらしゃらと鳴った。
エレベーターに飛び乗り、是枝が追ってこないことを確認してからようやく柚子はホッと息をついた。
壁にもたれ、乱れた呼吸を整える。
時間にするとたった30分ほどの出来事だったが、柚子にとっては永遠にも思える長い時間だった。
(…………なんであんな奴の車に乗っちゃったんだろ……)
激しい後悔が柚子を襲う。
それと同時に言い知れない混乱と不安が、柚子の胸に波のように押し寄せてきていた。
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