一日限定の恋人

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「陸。頼みたいことがあるんだけど」 その日の帰り道、後部座席から運転をしている五十嵐に証がおもむろにそう切り出した。 嫌な予感を覚えて五十嵐は思わずハンドルを強く握る。 「………何ですか」 「次の日曜、あいつの買い物に付き合ってやってほしいんだ」 「………………」 (………やっぱり、そんなことだろうと思った……) 五十嵐は小さく溜息をつく。 「………別に構いませんが」 意外にも渋りがちな声を五十嵐が出したので、証は身を起こした。 「なんだよ、なんか予定あんのか?」 「いえ、大丈夫ですよ」 五十嵐は苦笑しながら首を振った。 「買い物って何ですか」 「さぁ。なんか食器とか色々買いてーんだと。付き合うっつってたんだけど急に出張になったから」 「ああ、なるほど」 返事をしながら、五十嵐はチラッとバックミラーに映る証に視線を投げた。 自分の中で柚子への気持ちがどんどん大きくなり始め、それを何とかせき止めたくて、なるべくなら柚子とあまり接触したくないと思っているのに。 証の中で五十嵐は全くの安全圏らしく、こういったことを平気で頼む。 まさか長年一緒に過ごしてきた従兄弟と、好きになる女性がカブるとは夢にも思っていないらしい。 マンションの下に到着し、証は車を降りながら五十嵐を振り返った。 「じゃあな、陸。また明日」 「はい。お疲れ様でした」 五十嵐は笑顔で証に頭を下げたが、証の姿が見えなくなるとスッと笑いを収めた。 ハンドルを握ったまま、ゆっくりとシートにもたれる。 「ちょっとは警戒してくれないと、本気で手出すぞ」 くしゃっと髪を掻きあげながら、五十嵐は静かにそう独りごちた。  
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