一日限定の恋人

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向かい合って夕食をとっていた時、不意に思い出したように証が顔を上げた。 「あ、そうだ。俺、今度の日曜出張になった」 「……………えっ?」 柚子は箸を止めて顔を上げる。 「出張?」 「ああ」 「ええー。買い物の荷物持ちしてくれるって言ったじゃん」 「しょーがねーだろ、仕事なんだから」 証は悪びれもせずにそう言い、柚子は頬を膨らませた。 強制された訳ではないが、証が外出を控えろと言ったので、柚子は下のスーパーへ行く以外は極力外出を控えている。 スーパーには食料品しか売っていないので、次の日曜は証が買い物に付き合ってくれることになっていた。 これを機会に食器など買い揃えたい物がまだあったので、証に荷物持ちをしてもらう予定だったのだが……。 「出張ってどこに行くのよ」 「北海道」 「ええ~、いいなぁ~。今の季節ってラベンダーが綺麗なんだよね」 「………人の話聞いてんのか。仕事だっつってんだろ。富良野なんか行かねーよ」 「………でもどうせ夜は接待と称して薄野でキャバクラ巡りするんでしょ」 柚子は口を尖らせたまま箸を再び動かし始めた。 「行かねーよ」 「ふん、どうだか。よく考えれば私達が再会した場所もキャバクラだったもんね」 プリプリした様子の柚子を見て、次は証が箸を止めてじっと柚子の顔を見つめた。 「お前、妬いてんの?」 「………………!」 柚子はご飯粒を喉につめ、慌ててお茶でそれを流し込んだ。  
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