一日限定の恋人

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「……はぁっ? バッカじゃないの。な、なんで私が妬かなきゃなんないのよ」 「じゃあなんでそんな怒ってんの」 「そ、それはあんたが約束破るからでしょ! 買い物行きたかったし……」 柚子が証から目を逸らして咎めるように言うと、証はふっと嘆息した。 「悪かったよ。陸に頼んでやるからそれでいいだろ」 「え、五十嵐さん?」 柚子は証に視線を戻す。 「五十嵐さんは一緒に行かないの?」 「ああ、今回は俺一人で行く」 「………でも、日曜に付き合わせるの悪いし……」 「別にいいだろ。あいつ日曜は家で掃除してるかDVD見てるかどっちかだって言ってたし」 「………………」 柚子は黙って考え込んだ。 五十嵐に付き合わせるのは申し訳ないが、正直久々の外出を心待ちにしていたのだ。 外の空気を吸って、思いきり羽を伸ばしたかった。 「……ホントに、いいのかな。五十嵐さん用事とかない?」 「多分な。明日聞いとく」 短く答えて証は箸を置いた。 「ごちそうさま」 言うと立ち上がり、そのままリビングへ向かった。 柚子も立ち上がって食器を片付け始める。 食器を洗いながら、柚子はチラリと証に目を向けた。 証は煙草をふかしながら珍しくテレビを眺めていた。 『妬いてんの?』 証の言葉を思い出し、スポンジを持つ手にぐっと力がこもる。 (………妬いてなんかないわよ。妬いてなんかない……けど……) 柚子はぼんやりと髪を切られた日のことを思い返していた。  
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