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証はかすかに目を伏せる。
「わかっています、お父さん」
静かな証の答えに、雄一郎は溜飲を下げたように肩の力を抜いた。
再び箸を取り、料理を口に運ぶ。
「ところで鬼龍院の娘とはどうなっているんだ」
「別にどうもなっていません」
少しうんざりした口調で証が言うと、雄一郎はくっと笑った。
「お前の好みではないか。まあ確かに少々思い込みが激しそうではあるな」
「………………」
「官僚の娘だからな。お前さえよければまとまってもいい話だと思ったが」
(………冗談じゃねぇ)
証は小春の顔を思い浮かべながら内心で舌打ちをした。
小春なんかと結婚するぐらいなら猿と結婚したほうがまだマシだ。
黙りこくってしまった証を見て雄一郎はふっと苦笑をした。
「まぁこの話はここまでにしておこうか。お前も重々わかっているようだし、せっかく久々に会ったのだから楽しい酒にしたい」
「…………そうですね」
(よく言うぜ。俺の誕生日も覚えてねーくせに)
そう心の中で毒づきながらも、証は父に酒を注いでにっこりと笑って見せた。
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