21発の花火

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(なんか、すっげー疲れたな…) 永遠にも思える長い父との会食を終え、タクシーに乗り込んだ証はようやく体の力を抜いた。 父に会う時は何故かいつも緊張してしまう。 時計を見ると、既に11時を回っていた。 (……あいつは、もう寝たかな) 柚子の顔が浮かんだ途端、先程の父の話が脳裏をよぎった。 腕を組み、窓からの景色をぼんやりと眺める。 (どうせ好きな女と結婚できないなら……) それなら誰と結婚しても同じことだ。 誰でも同じなら、より『成瀬の為になる女性』を選ばなければならない。 父の眼鏡に敵うような、成瀬の家がますます発展できるような、そんな女性を……。 雄一郎が成瀬家の為に並々ならぬ努力をしてきたことは知っている。 しかしそれで果たして父が幸せだったのかどうか、証はいつも疑問に思う。 仕事でがむしゃらに身を削る分、私生活では愛する人と共に過ごし、癒しを求めたいと思うことは間違っているのだろうか。 それとも『成瀬』という家に生まれてしまった運命として、結婚すらその家の繁栄の為に相手を選ばなければならないのだろうか。 ………それならば何故、母が死んだ後、父は再婚しなかったのだろう。 結婚すら成瀬の家の為と豪語するなら、何故……。 物思いに耽っていると、いつの間にかタクシーはマンションに到着していた。 (………マズイ酒だった。帰って飲みなおすか……) エレベーターの壁に力なくよりかかりながら、証は瞑目して疲れたように吐息した。  
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