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証はスーツの上着だけを脱ぎ、少しネクタイを緩めてテーブルについた。
ロウソクの火を吹き消すことを散々渋って最終的には嫌々やっていたが、柚子がHAPPY BIRTHDAYの歌を歌おうとすると本気で止められた。
「………どう? 美味しい?」
証が何も言わないで黙々と食べているので、柚子は窺うようにそう尋ねた。
「……ああ、美味い」
ボソッと証が呟くのを見て、柚子はホッと笑顔を見せた。
証はそんな柚子の笑顔を見ながら、おもむろに口を開いた。
「……こんな風に家でケーキとかって誕生日、テレビで見て結構憧れてた」
「え。子供の頃は?」
「ずっと外食。親父は財布から現金出して『これで何でも好きな物買え』って。味も素っ気もねぇよ」
証はシャンパンに口を付けながら頬杖をついた。
「……母親が生きてれば、違ったのかもしんねーけど」
「………………」
言われて柚子は自分が子供の頃のことを思い出した。
「うちもお母さんそういうの得意じゃなかったけど、私の誕生日だけはご馳走作ってくれたなー。ケーキは市販のやつだったけどね」
「…………ふーん」
明るい口調で話す柚子を、証は不思議そうに眺めた。
「お前ってさ。母親のこと恨んでない訳?」
「え?」
「母親が出ていかなければ、ここまで苦労することもなかったんじゃねーの?」
証の言葉に、柚子は少し考える素振りを見せた。
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