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「世間は冷たかったよ。優しい言葉をかけてくれる人ならいくらでも居た。でもね、同情するなら金をくれってやつだよ。
施設の中で薄汚れた洋服を着せられて、大勢が入る風呂にはいつも垢が浮いてた。潔癖症の僕には我慢がならなかった。
いつかそこから抜け出す日が来ることだけを夢見て、姉ちゃんと2人で耐え忍んだ」
あたしは思わず怒鳴っていた。
「22年前、お前らの兄貴が先に政やんに手を出したんだろ!逆恨みして政やんを半殺しにもしたんじゃないか!組を破門になったっていうのは、シャブでテンパッてたからだろうが!」
「良く知ってるじゃないか。でもね、政、ヒロ、ヤス、この3人さえ居なければ、わたしたちの兄さんは死ぬことはなかったんだよ」
生田目が凍るような冷たく低い声で言った。
余りに理不尽な言い分に、突きつけているナイフを動かしたい衝動にかられた。
「そうだよね姉ちゃん。とにかく僕はキレちゃったのさ。食いちぎられた腕の痛みに兄さんの仇が加わり、その場にあった金属バットであの男をめった打ちにしてしまった。
その後はニュースで見たんだろう?」
政やんの遺体を大磯港に捨てたのだ。
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