恋の病

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「五十嵐さん、橘ですけど。………五十嵐さん!」 割りと大きめな声をかけたが、やはり反応はなかった。 (もしかして寝てるのかな……。どうしよう、出直したほうがいい? それとも証に電話してもらって……) しかしその時、ガタンと部屋の奥で物音がした。 続いてバタバタとこちらへ向かって走ってくるような足音がしたかと思うと、直後勢いよく目の前のドアが開いた。 柚子は思わず半歩後ずさる。 「………柚子さん……」 中から出て来た五十嵐は、信じられないというような顔で柚子を見下ろした。 柚子は慌てて頭を下げる。 「あの……証から五十嵐さんがダウンしたって聞いて……様子を見にきたんですけど。……大丈夫、ですか?」 柚子は窺うように五十嵐を見上げた。 柚子の言葉を聞いた五十嵐は、少しけだるげに壁に寄り掛かって前髪を掻き上げた。 「……証の奴、余計なことを」 億劫そうな声を聞き、柚子は戸惑って五十嵐の顔を見つめた。 「あ、あの…。ご迷惑、でしたか?」 「え、あ、いえ、違います」 五十嵐は慌てて身を起こす。 「柚子さんも忙しいのに、と。そう思って……」 「私は全然、大丈夫です」 柚子はブンブンと首を横に振った。 「よかったらお世話させてください。……お役に立つかどうかわかりませんが」 「………………」 五十嵐はしばらく柚子の顔を黙って見つめていたが、やがてふっと息をついて微笑んだ。 「………散らかってますが、どうぞ上がってください」 そう言って一歩下がり、上がりかまちにスリッパを並べた。  
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