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「…………ふぇっくしょい!」
ワイシャツにアイロンを当てていた柚子のくしゃみを聞いて、証は読んでいた新聞から顔を上げた。
「なんちゅー色気のねぇくしゃみだ」
柚子はグスグスと鼻をすする。
「急に寒くなったよね。いやー秋分の日とはよく言ったもんだわ」
「………ババくせぇな」
呆れたように溜息をつき、新聞をテーブルに置く。
しかしそこでふと真顔になった。
「そういや陸も今日、調子悪そうだったな」
「えっ、五十嵐さん?」
柚子は弾かれたように顔を上げた。
「調子悪いって大丈夫なの?」
「さぁ。あいつ絶対大丈夫って言うからな。でも確かに今日鼻グズグズ言わせてたな」
「………そう。……心配だね」
「そうだなぁ。あいつ一人暮らしだし彼女いねーし、ぶっ倒れたら終わりだな」
彼女がいないという言葉に小さな引っ掛かりを覚え、柚子はアイロンを脇に置いた。
遠慮気味に口を開く。
「五十嵐さんって……好きな人いるのかな」
証は少し驚いたように柚子を見つめた。
「なんで」
「え……。前に買い物に付き合ってもらった時にした会話で、なんとなくそんな風に感じたから……」
「…………ふーん」
証は不思議そうに首を捻る。
「あいつとはあんまりそういう話しねーけど……。でもいねーんじゃねーかな」
「………どうして?」
「しばらく女はいいって言ってたから」
柚子はきょとんと証を見つめた。
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