恋の病

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「どういうこと?」 「………んー…」 証は少し面倒臭そうに頭を掻いた。 「あいつ、大学ん時に彼女いたんだけどさ」 「……………」 初めて聞く五十嵐の女性関係の話に、柚子はにわかに緊張を覚えて無意識に姿勢を正した。 「彼女のほうから陸に告白して三年ぐらい付き合ったらしいんだけど、ある日突然『刺激がない』っつってフラれたらしい」 「…………………」 柚子は呆れて言葉を失った。 「………はぁっ? 何それ!」 「要するに優しすぎるってことなんだろうけど……」 証はそこで腕を組んで溜息をついた。 「自分は自分なりにイベントも大事にしたし、誠意を持って付き合ってたのに、そんな理由でフラれるんならどうしようもないって笑って話してたけどな」 「………ひどい、許せない」 「ああ。『女の影でもチラつかせればよかったのか、浮気したらしたで怒るくせに、さっぱり女心はわかりません、しばらく女性は懲り懲りです』って言ってたのが二年前。……それから心境の変化があったのかは知らねーけど、見た感じはなさそうだな」 「…………そう」 「モテるから何人かの女子社員に言い寄られてるみたいだけど、適当に上手くかわしてるぜ、あいつ」 そこで証は話し疲れたようにビールに口を付けた。 柚子は怒りでムカムカしながら乱暴にシャツを畳む。 (刺激がないって何よそれ! 優し過ぎることの何が悪いのよ!) 落ち込んだ時、泣きそうな時、自分はどれほど五十嵐の優しさに救われたことか。 羽根を伸ばそうと言って外に連れ出してくれた時、どれほど嬉しかったか。 (なんか……たまたまそんな女に当たっちゃっただけで、恋愛から遠ざかるなんて勿体なさすぎるよ……あんなにいい人なのに……) 五十嵐には素敵な恋愛をしてほしいと、この時柚子は心からそう思った。  
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