恋の病

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五十嵐のマンションはごく普通のワンルームマンションだった。 聞くと引っ越しが面倒で、学生時代からそのまま使っている部屋らしい。 散らかっていると言ったが、中は比較的綺麗に片付けられていた。 というよりは、物が少なく殺風景で、ワンルームの割にはとても広く感じられた。 青が好きなのか、寝具やカーテン、絨毯など全て青を基調としたもので統一されている。 五十嵐は上下スウェット姿だったが、それも濃い青色だった。 「すみません、こんな格好で。今コーヒー淹れますから」 そう言ってそのまま五十嵐が台所へ向かおうとしたので、柚子は慌ててそれを止めた。 「何言ってんですか! 私、看病に来たんですよ? 五十嵐さんは寝ててください!」 「………でも……」 「もー、今日は遠慮も気遣いも一切ナシです!」 柚子は五十嵐の背中を押し、強引にベッドに入らせた。 五十嵐は半身を起こしたまま、どうしていいかわからないというような顔をしている。 セットしていない前髪が額にサラサラとかかり、その困ったような表情と合間って、五十嵐が年よりも若く見えた。 柚子はベッドの脇に座り込む。 「それで、どうなんですか、体調は」 「朝は39.4℃あったんですが、今は少し下がりました。体も朝よりは大分楽です」 「御飯は食べれてるんですか」 「………いえ、実は夕べから何も」 バツが悪そうに五十嵐は笑った。 「何か食べたい物ありますか。私何でも作りますよ」 「………でも……」 「遠慮はナシって言ったじゃないですか。甘えてくれたほうが嬉しいです」 「………………」 五十嵐は少し照れたように笑い、遠慮がちに口を開いた。 「じゃあ……証が倒れた時に作ったっていう鳥雑炊が食べたいです」 「…………え」 「証があれは美味かったって言ってたので、一度食べてみたいと思ってたんです」 柚子の顔がカアッと赤らんだ。   「あ、証、そんなこと言ってたんですか?」 「ええ、珍しいでしょう? 弱ってる時に食べて、よほど美味しかったんでしょうね」 「………………」 柚子は赤い顔のままスックと立ち上がった。 「じ、じゃあ台所借りますね。すぐ作りますから、待っててください」 そう言って持ってきた材料を手にし、柚子は台所へと向かった。 その後ろ姿を見つめながら、五十嵐は不思議な気持ちに襲われていた。 (災い転じて……ってやつかな)  
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