恋の病

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「料理道具が揃っててよかったです。証の家に初めて行った時は鍋もフライパンも何もなかったんですよ」 「学生の時はちょこちょこ自炊してましたからね。彼女が料理してくれることもあったし」 五十嵐の口から彼女という言葉が出て、柚子はドキリとした。 証が昨日話していた例の彼女のことだろうか。 再び柚子の胸にムカムカと怒りが込み上げてきた。 「………彼女とは長く付き合われてたんですか?」 それとなく問うと、五十嵐は食べる手を止め、少し困ったような笑顔を見せた。   「三年付き合ってました。僕がつまらない男なんで飽きられてフラれてしまいましたけど」 冗談ぽい口調でそう言って微笑んでから、五十嵐は再び雑炊を食べ始めた。 柚子は胸を衝かれる。 (………優しい人だな……) 決して彼女のせいだなんて口にしない。 しばらく女性は懲り懲りだと言うほど当時は深く傷付いたはずなのに……。 柚子はぎゅっと膝の上で拳を握りしめた。 「五十嵐さんは……つまらなくなんかないです」 「………………」 全て食べ終え、お茶を飲んでいた五十嵐は意表をつかれたように柚子を見つめた。 「私、五十嵐さんと一緒にいると楽しいですよ。……癒されるし、ホッとします。……この前も一緒に出かけられて、ホントに楽しかったです」 「……………」 「一人の女性に言われたことが、全ての女性の意見じゃないです」 柚子は顔を上げて五十嵐の目を見つめた。 「五十嵐さんは、素敵ですよ」 五十嵐は動揺したようにその瞳を揺らめかせた。 何を言っていいかわからなくなり、ただ柚子の顔を見つめ返す。 「…………柚子さん………」 「あ、すみません。体調悪いのにベラベラ喋ってしまって」 柚子は慌てて自分のほうに盆を引き寄せ立ち上がった。 「ホントにごめんなさい。五十嵐さんはもう寝ててください」 恥ずかしそうにそう言うと、柚子はトタトタとそのまま台所へ向かった。 「…………………」 洗い物を始めた柚子の後ろ姿をしばらく見つめた後、五十嵐はフラフラとベッドへと戻った。 顔が異様に熱い。 かえって熱が上がったのではないだろうか。 (……勘弁してくれよ、もー…。風邪じゃなかったら襲ってるぞ……) 頭から毛布を被り、五十嵐はしばらく布団の中で一人悶絶していた。  
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