第1話 プロローグ

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「カスミ、その赤子を置いていけ。その子がこの世に生存していると、俺たち生霊族にとって不都合だ」  黒い人影のひとりが言った。 「あんたたちが私とこの子を付け狙っていたのは知っていたわ。いったいこの子がなんだっていうの?この子は普通の人間の子として生まれてきたわ。透明人間ではないのよ」  女は赤いマントの胸の隙間から覗く眠った赤子の頭髪を手で隠すようにして言った。 「お前にはわかっているはずだ。我々、生霊族は細胞内のミトコンドリアが普通の人間には見えない不可視光線を発光しているために、透明人間になっている。そのミトコンドリアは母性遺伝によって母親から子供に受け継がれていく。だから、その子はお前のミトコンドリアを受け継いでいる。生まれたときに普通の人間の姿をしていても、その子は生霊族と同じ透明人間になる能力を潜在的に持っているのだ。恐らく、何らかのきっかけでその能力が発揮されるだろう。そのときでは、手遅れなのだ」 「ふん、この子は生きていく権利を持っているわ。それにたとえ、この子が生霊族の透明人間になる能力を持つようになるとしても、不都合なのはあなたたち犯罪グループにとってだけでしょう。善良な生霊族にとってはむしろ良いことなのよ」 「どういうことだ」 「この子が普通の人間として生きてくれれば、生霊族の子孫は普通の人間の一員になれるという未来が開けることになるのよ。いまわたしはその可能性に賭けているの」 「生霊族が普通の人間の一員になれるだと、馬鹿なことをいうな。逆に俺たちインビジブルトライブ(透明種族)の存在が知られてしまえば、普通の人間たちは興味本位に生霊族狩りをやりかねないぞ」 「馬鹿ね、生霊族は透明人間なんだからいままでどおりひっそりと暮らしていれば普通の人間にその存在を知られてもわたしたちを探し出すことは莫大なコストがかかるし至難の技だわ。でも、あなたたちのように普通の人間から金品を盗んだり危害を加えるようなことをしている者にとっては、生霊族狩りは脅威になるでしょうよ。だから、あなたたちだけにとって不都合だと言っているの」 「ええい、問答は無用だ。親子もろとも殺してしまえ」
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