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とある昼下がりの放課後。
「先生。竹内せんせーい。」
「おやどうしたのですか?
朝倉さん。」
「先生に奨められた夏目漱石の『こころ』を読んでみました。」
「そうですか。それはよかったです。
それで読んでみてどうでしたか?」
「そうですね…
もっと『先生』友人のKに対して誠実であるべきだなとは思いましたね。
ただ、やっぱり先生の過去とか、時期の巡り合わせとか、
いろいろと考えるとやっぱり一概には言えないですし、
やっぱり恋は人を狂わせますね。」
「そうですか。いろいろと思われた部分はあったみたいですね。」
「それはもう。いろいろと考えさせられる作品でした。」
「そうですか。そう言われると奨めた甲斐がありますね。」
「ええ、ありがとうございました先生。
あ、そうそう。この作品って、『先生と私』と『両親と私』と『先生と遺書』の、
上中下から構成されてますよね?」
「そうですが、それがなにか?」
「その中の『先生と私』なんて、この作品のタイトルと一緒ですね」
私がそう笑顔で話すと、
先生はあまりにも急な宣告で、まるで余命を宣告された病人のような
顔をした。
私はなにか取り返しのつかないことを
言ってしまったことに気づいた。
「せ、先生………?」
「朝倉さん。君は言ってはいけないことを言ってしまった。」
先生はそういうと、ゆらりと立ち上がった。
「この世界ではその言葉は決して言ってはいけない禁句【タブー】になっているのです。」
先生の右手に黒いノイズのような謎の物質が集まっていた。
「そして、その言葉を言ったものは例外なく一つの道を辿るのです。
それは……」
先生の右手に黒いノイズのような物質で覆われると同時にまさしく、
目も見えぬ速さで私の懐に踏み込んできた。
「消去【デリート】です。」
先生の右手が私の中に入ってくる。
それと同時に私の意識が暗くなるのがわかった。
ああ、これが消える感覚のなのか、と薄れゆく意識の中で私は思った。
「さようなら、朝倉さん。」
先生の声が聞こえた。
それに答えることが出来ずに『私』は消えていった。
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