秋の夜長

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簡単に指が一周してしまう程、細い手首だった。 柚子は立ち止まり、不思議そうに五十嵐を振り仰ぐ。 「………五十嵐さん?」 「え、あ……」 五十嵐は我に返り慌てて柚子から手を離した。 「えっと……送って行きます」 「え……」 柚子は目を丸くする。 「嫌だ、こんなに明るいのに。私、幼稚園児じゃないですよ」 クスクス笑ってそう言う柚子を見て、五十嵐の顔がわずかに紅潮した。 「そうですよね。すみません」 「ちゃんと一人で帰れますから」 笑顔で会釈してから、柚子は五十嵐に背を向けて歩き出した。 柚子の姿が見えなくなるまで見送った後、五十嵐は家の中に戻った。 ベッドに腰を下ろし、ふーっと大きく息を吐く。 そうして紙袋からパジャマを取り出した。 きっちりアイロンが当てられ、丁寧に畳まれたそれを見て五十嵐はクスッと笑みを漏らした。 「…………几帳面だなぁ」 紙袋の奥に小さな封筒が入っていることに気付き、それに手を伸ばす。 綺麗な和紙でできた手作りの封筒で、中には小銭と小さなメモが入っていた。 メモには簡単に謝辞と詫びが書かれていて、最後に柚子のマークのつもりなのか果物のユズの絵が書かれていた。 五十嵐はプッと吹き出す。 「可愛いなぁー…。やることがやっぱ若いわ……」 不意に五つの年の差を感じ、五十嵐はそっと苦笑した。 先程、柚子の腕を掴んだ手をじっと見つめる。 …………帰したくなかった。 もっと、もっと側にいて、その笑顔に触れていたかった……。   切ないものが込み上げてきて、五十嵐はぎゅっと胸元を握り締めそのままベッドに横になって強く目を瞑った。  
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