秋の夜長

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※※※※※※※ 「社長。是枝様というかたが面会を希望されてますが」 受付からの内線を取った五十嵐が証にそう告げた。 自身のデスクで書類に目を通していた証は聞き間違いかと思い、五十嵐を見つめたまま眉を寄せた。 「…………誰だって?」 「是枝様です。……お通ししますか?」 「………………」 証は頭痛を覚え、強く額を押さえた。 続いて、これ以上はないという渋面を作る。 それを見た五十嵐は不穏な空気を感じ取った。 「………お断りしましょうか」 「─────いや」 証は立ち上がり、スーツの上着に手を伸ばした。 「そっちに下りるって言ってくれ」 短くそう言うと、証は乱暴な足取りでドアへと向かった。 一階へ下りると、是枝が満面の笑みで受付嬢に話し掛けていた。 証の姿に気付いた受付嬢が、困ったような顔で立ち上がる。 深く腰を折る受付嬢を軽く手で制し、証は是枝の元まで歩を進めた。 「うわー、エラソー」 是枝は揶揄するようにクスクス笑う。 証は最高潮に苛ついたが、社員の手前もあり無理に笑顔を作った。 「外で話そうか」 「えー、社長室とか通してくんねーの?」 「……………外で話そうか」 笑顔を引き攣らせて語気鋭く言い放つと、是枝はつまらなさそうに肩をすくめた。  
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