秋の夜長

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「何って……柚子ちゃんとH」 是枝は証の反応を窺うように小声でそう言った。 ────俺を試している。 そう察した証は、是枝のペースに乗らないように平常心を保とうとした。 静かに是枝と対峙する。 「…………で?」 「え?」 「あいつとヤッたのか?」 証の反応は意外なものだったらしい。 是枝の顔からスッと笑みが消えた。 「ヤッたって……言ったら?」 「………………」 相変わらず自分では答えを言わずに、相手に委ねるような言い方をする。 証はじっと是枝の目を見据えた。 「あいつ……どんなだった?」 「……………は?」 「ヤッた時のあいつ、どんなだった?」 「………………」 是枝は完全に言葉を無くしてしまった。 周りには子供もいるというのに、さすがに是枝も内心ではうろたえる。 だがその狼狽を悟られるのが悔しく、是枝は無理に口角を上げて笑顔を作った。 「………何それ。そんなこと聞きたい訳?」 「………………」 「どんなだったって何。すげー感じて、よがってたとでも言えばいいの」 証は答えずに是枝の顔をただ見つめている。 落ち着き払ったその様子に、是枝は激しく苛立った。 「自分が抱いた時とどう違うのか、比べでもしたいのかよ」 それを聞いた証はふっと溜息をついた。 語るに落ちた是枝を静かに見つめる。 「…………あいつさ」 「……………?」 「処女なんだよ」 その瞬間、是枝ははっきりと目を見開いた。  
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