秋の夜長

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「……………え?」 笑顔を作ることも忘れて唖然とした表情を見せる是枝を見て、証はフンと鼻を鳴らした。 「なんで驚くんだ? ホントにお前があいつとヤッたってんなら、それが嘘か本当かくらいわかるだろ」 「……………!」 是枝はハッと我に返った。 「………お前っ、カマかけたのかよ!」 「いいや?」 証は静かに是枝から目を逸らした。 「あいつが処女ってのはガチでホントの話」 「だってお前、婚約者で一緒に暮らしてるんだろ? なのに一回もヤッてねーのかよ」 「………………」 「……………お前、もしかしてゲイか不能か……?」 そこですかさず証の蹴りが是枝の足に跳んだ。 是枝は虚を衝かれてその場でたたらを踏む。 「ってーな、何すんだよっ!」 「………てめぇはホンっトに人を苛つかせる天才だな」 証は蔑むような目で是枝を見つめた。 是枝は口をへの字に結んで証の顔を睨み付ける。 「じゃあ、なんで手出さないんだよ。惚れてんだろ?」 「……………だからだよ」 証はそこでオフィスに戻るべく体を反転させた。 「大事だからだよ」 是枝は言葉に窮し、じっと証の口元を見つめる。 「お前、よく高校の時の俺からは想像できねーって言うけど、人ってのは変わるんだよ」 そこで証は嘲るような笑みを浮かべて是枝を一瞥した。 「いつまでも変わんねーでバカやってんのはお前だけだ」 そう言い捨てると、証は是枝に背を向けて歩き出した。 是枝はその後ろ姿をぼんやりと見送る。 やがてオフィスの中に証の姿が消えると、是枝はふーっと大きな溜息をついて頭を掻きむしった。 「…………あほくさ。………もうヤメヤメ」 そう呟くと一度証のオフィスを見上げ、くるりと踵を返して公園の中を歩き出した。  
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