秋の夜長

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※※※※※※※ 証と大喧嘩をして家を飛び出した日からちょうど一週間目の土曜日。 その日、証は朝から大学のレポートに取り掛かっていた。 11時頃に家事を終えた柚子は、エプロンを外しながら遠慮がちに証に声をかけた。 「ねえ、証」 「………ん?」 「ちょっと出掛けてきてもいい?」 そこで証はレポートから顔を上げ、柚子を見上げた。 「どこに?」 「えっと……五十嵐さんとこ」 「陸の?」 「うん。借りてたパジャマとお金、返したくて」 「別にわざわざ行かなくても、俺が月曜に渡してやるよ」 「……でも。直接会って、あの日のお礼とお詫び言いたいの」 「…………ふーん」 証はすぐにレポートに視線を戻した。 「じゃあ、行ってくれば」 「うん。お礼言ったらすぐに帰ってくるから」 「ああ」 証の短い返事を聞いてから、柚子はパジャマの入った紙袋を手に家を出た。 今日は上着がなくても大丈夫なほど陽射しが暖かい。 秋空に広がる鰯雲を仰ぎながら、柚子は小さな溜息をついた。  
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