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あれから証の態度は至って普通で……。
柚子はただ戸惑うばかりだった。
(冷静になるのよ、柚子。証は一度だって私のことが『好き』だなんて言ってないんだから……)
だが、だとしたら……。
『言っただろ。憎しみと紙一重なんだって』
あの台詞をどう解釈したらいいのか……。
月とスッポンよりも遠い位置関係にあると思っていた自分と証。
だからこそ、恋愛対象なんて目で見たことはなかった。
それ故に、もし万が一証が自分のことを好きだったとしたら……。
途端に足が竦む自分がいる。
思わせぶりなことを言いながらその後の追及を許さない証に対して苛立つ反面、ホッとしている自分がいるのも事実だった。
(………私って……臆病だなぁ。現状が居心地良すぎて、本当のことから逃げてばっかりいる……)
証との今の距離を壊したくない。
これ以上、近付きたくも遠ざかりたくもない。
…………それは、単なる自分の我が儘だ。
わかっているのに、一歩踏み込む勇気がない。
もう少し。
あともう少し。
………そうやって先延ばしにして二の足を踏んでばかりいる。
ぼんやりと考え事をしながら歩いていると、いつの間にか五十嵐のマンションの前まで来てしまっていた。
柚子はぷるぷると首を振る。
そうして気持ちを切り替え、おもむろにマンションに足を踏み入れた。
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