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「もしかしてタクシー待ってるの?」
「え……まあ……」
「だったら私送ってあげる。車すぐそこに停めてるから回してくるわ」
「いや、でも……」
「いいじゃない、久しぶりなんだし。少し話したいわ」
証はチラッと五十嵐に目を向ける。
空気を読んだ五十嵐は笑って首を傾げた。
「それじゃあ、僕は先に失礼します。社長、お疲れ様でした」
「…………ああ」
五十嵐は絵里香に軽く会釈してから、別の場所でタクシーを拾う為に歩き始めた。
酔いも醒めそうなほど風が冷たく、顔に痛みすら感じる。
(あれは元カノ……だな)
証の態度から察するに、ただの知り合いでないことは何となく感じ取った。
五十嵐は苦笑しながら、凍えるような向かい風に逆らって歩き続けた。
遠ざかっていく五十嵐の後ろ姿をしばらく見送った後、証はそれから視線を外して小さく肩で息をついた。
「それじゃあ車回してくるからここで待っててね」
「……………」
証の返事を待たず絵里香は踵を返して小走りで駆け出した。
カツカツというヒールの音が遠ざかって行くのを聞きながら、証は前髪を掻き上げた。
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