嫉妬とキスと

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思わぬところで柚子の名が出て、証はわずかに驚いて身を起こした。 絵里香はハンドルを強く握りしめる。 「秋から聞いたわ。成瀬君、あの橘 柚子と結婚するんだってね」 「……………」 証はふーっと吐息してガシガシと頭を掻いた。 「………そうか。お前は知ってるんだな、あいつのこと」 「秋に名前聞くまでは忘れてたけどね」 「……………」 「聞いた時はびっくりしたけど……ちょっと納得しちゃったかな」 そこで車は証のマンションの下に到着した。 絵里香は静かに車のエンジンを切る。 そうしてゆっくりと証に向き直った。 「橘 柚子ってあの当時、唯一あの鬼龍院 小春に屈しなかったもんね。端から見たら馬鹿だなぁって思ったけど……。成瀬君はそういう子だから、好きになったのよね」 「………………」 証は何も答えない。 絵里香は少し淋しげに笑った。 「………秋が言ってたわ。成瀬君、変わったって。……それもあいつ悔しかったみたいね。本気で人を好きになるってことすら貴方に先を越されて」 「………なんだそりゃ」 証は呆れたように呟いた。 まったくもって意味がわからない。 当惑げな証を見て、絵里香は笑って腕を伸ばし証の首にそれを回した。
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