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「ヤリながらお前の顔隠して、あいつの顔思い浮かべて、あいつの名前呼んで。……それでもいいってんなら別に構わねーけど?」
「………………」
絵里香はのろのろと証の首に回していた腕を解いた。
そうして長い髪を掻きあげながら、横を向いてハアッと大きく嘆息した。
「……サイッテーの断り方ね」
「……………」
「その気がないなら始めからそう言いなさいよ」
恨みがましい目付きで軽く睨むと、証は少し笑って肩をすくめた。
それほど橘 柚子が大事なのかと、絵里香の胸を複雑な思いが込み上げた。
「でも、橘 柚子って親の会社の経営が悪化して別の小学校に行ったんでしょ。よくお父様が結婚許してくれたわね」
「…………まぁな」
証は曖昧に返事を返した。
話題を変えようと絵里香に目を向ける。
「お前はどうなんだよ。実家の病院継ぐんだろ?」
「…………うん。継ぐわよ」
絵里香は笑って髪を耳にかけた。
「………実はね、もう結婚相手も決まったの」
「……………」
「父の信頼厚い35才の外科医でね。………優しい人だけど……なんでかな、全然好きになれない」
証は絵里香の気持ちが痛いほどわかり、思わず目を逸らすように窓の外を見つめた。
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