嫉妬とキスと

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「…………そっか」 その時、再び絵里香の腕が証の首に回されたかと思うと、証は絵里香に強く口付けられていた。 証が目を見張ると同時に唇を離し、絵里香は証の胸にしがみついた。 「………今だから言うけど……私、成瀬君のこと結構本気で好きだったの」 「……………」 証は黙って絵里香を見下ろす。 だが、優しく抱きしめたりはしなかった。 「俺も、付き合った中ではお前が一番好きだったよ」 絵里香はプッと吹き出し、ゆっくりと顔を上げた。 「何それ。慰めのつもり?」 言いながらそっと涙を拭って微笑んだ。 「でも……会えてよかった。……ちょっと吹っ切れた気がする……」 証は静かに頷き、シートベルトを外した。 ドアを開け、そこで一度振り返る。 「………じゃあな。助かった」 「………うん」 証はじっと絵里香を見つめ、ボソッと一言だけ呟いた。 「頑張れよ」 短くそう言うと、証はドアを閉めてくるりと踵を返した。 振り返りもせずに歩いていく証の背中を、絵里香は唇を噛んで見送る。 そうしてふっと自嘲の笑みを漏らした。 …………さようなら。 下の名前で呼ぶことすら許してくれなかった、かつての恋人……。  
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