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そう、憎しみや哀しみやそういった感情を押しのけて一番最初に感じたことは……
まだ証と一緒にいたいということだった。
それが柚子の、今の正直な気持ちだった。
五十嵐の言う通り、時間が経てばまた今とは違う複雑な感情が沸いてくるかもしれない。
でも今は、ただ証と一緒にいたかった。
「やっぱお前、すげーわ」
証はそう言い、少し呆れたような笑顔を見せた。
柚子はスン、と鼻をすする。
「………普通だよ」
「普通じゃねーよ」
証は笑って柚子の後頭部に手を回した。
柚子の顔を間近に引き寄せる。
そうして涙を拭うように柚子の目頭にそっと口付けた。
瞼や頬、そして最後に額に唇を押し付けてから、証はゆっくりと体を離した。
「………今まで黙ってて、悪かった」
「…………んーん。結果的に、知らなくてよかったと思うから」
柚子が涙を拭うのを待ってから、証は遠慮がちに口を開いた。
「……なあ、一つだけ聞いていいか?」
「何?」
「事件のこと、誰から聞いたんだ? やっぱり是枝なのか?」
「え……あ……」
柚子は証にしがみついたままだったことに気付き、慌てて体を引き離した。
「えっとね、………お母さんに」
「………えっ!?」
証はぎょっとしたように身じろぎした。
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