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「ニューヨークの本店を日本に移すことになったの。……あなたのこともあったし、思い切って帰国しようと思ってね」
「………そう……なんだ」
「今はホテル住まいなんだけど、いつまでもそんな訳にはいかないし。だから日本で住む所を探してるとこだったの。今日はたまたまあそこを見に行って、その帰りにぶらっとスーパーに寄ったらあなたがいたのよ」
奈緒子は柚子を見て目を輝かせる。
本当に恐ろしい程の偶然だ。
だが……
(………証もそうだったけど、会うの子供の時以来なのに、すぐにわかられちゃう私って一体……。そんなに変わってないのかな)
激しく落ち込んだその時、奈緒子がグイと身を乗り出した。
「それよりも、あなたこそ何故あんな所にいたの?」
「………………え」
「あんな高級マンションに……まさかあそこに住んでるの?」
「えーーっと……」
「しかも三千万キャッシュで返したって本当なの?」
奈緒子は立て続けに質問を寄越した。
柚子は何と説明するべきか思案する。
まさか同じ年の男性に奴隷として雇われたなどとは言えない。
「えっとね、そのー……あそこに住んでる人のお世話になってるというか……」
「お世話って……お友達なの?」
「いや、お友達というか……」
柚子はどこまで事実を話すべきか迷ったが、観念してある程度本当のことを話そうと決めた。
妙なごまかしかたをして、変な誤解をされても敵わない。
「鷺ノ森の時に、同じクラスだった子なの」
「…………鷺ノ森の?」
「うん。偶然再会してね。お母さん覚えてないかな。成瀬 証っていう子なんだけど」
その瞬間、奈緒子の顔色がはっきりと変わった。
動揺したのか、脇に置いていたカップに手が当たり派手に倒れる。
カフェオレが白いテーブルクロスをみるみる琥珀色に染めていった。
柚子は驚いて奈緒子の顔を見つめた。
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