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「…………お母さん?」
「成瀬 証って……あの成瀬グループの御曹司の……?」
奈緒子の声は震えていた。
柚子はためらいがちに頷く。
「………そ、そうだけど……」
柚子の返事を聞き、奈緒子は信じられないというように柚子を見つめた。
「柚子あなた……正気なの?」
「…………え?」
母親の動揺が伝わってきたのか、柚子も激しく狼狽した。
一体、母は何を言おうとしているのだろう……。
奈緒子は一拍の後、探るように口を開いた。
「あなたまさか……付き合ってるとか言わないわよね?」
「え、ううん、まさか」
柚子はぶんぶんと首を横に振る。
それを見た奈緒子は少しホッとしたように肩の力を抜いた。
「……そう。ならいいけど……」
「どうして?」
柚子はぐっと身を乗り出した。
「正気かってどういうこと? 証と一緒にいることに何か問題でもあるの?」
「問題も何も───」
そこで奈緒子の眉宇が醜く歪んだ。
その顔にははっきりと憎しみの色が見てとれた。
「成瀬こそ、私達を不幸のどん底に突き落とした張本人じゃないの」
「………………」
ドクン、と柚子の心臓が奇妙な音をたてて弾んだ。
じっと奈緒子の紅い唇を見つめる。
そうして今聞いた言葉を、ゆっくりと頭の中で反芻した。
成瀬こそ。
私達を。
不幸のどん底に。
突き落とした張本人……。
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