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「でも……橘はあなたに何も言わなかったんでしょう?」
「それは私がまだ子供だったからよ。……でも、もうハタチよ。ちゃんと聞いて理解して、自分の中で処理できるわ」
「………………」
柚子の瞳に揺るぎないものを感じ取った奈緒子は、目を閉じて大きな溜息をついた。
バッグからおもむろに煙草を取り出す。
女性らしい細い煙草に火を点け、ふーっと一つ煙を吐き出した。
「………わかったわ」
そう言うと奈緒子は一度ふかしただけの煙草を、すぐに灰皿に押し付けた。
どうやら気持ちを落ち着かせる為だけの一服だったらしい。
奈緒子は真っ直ぐに柚子に向き直った。
そうしてゆっくりとした口調で話し始めた。
「お父さんの会社、橘建設はね。成瀬グループの下請け会社だったの。……わかる?」
「えっと、つまり……成瀬グループから仕事を貰ってたってこと?」
「そう。主には公共の仕事で、例えば道路工事とか、都市開発の基礎工事とか。
下請けと言っても成瀬グループが入札してきた仕事を丸投げしてもらってたんだけどね。
だから橘建設にとって成瀬グループは頭の上がらない取引先。
皮肉だけれど、会社が軌道に乗ってあれだけ生活が潤ったのも、成瀬のおかげと言えるのよね」
奈緒子は憂鬱そうに眉をひそめた。
証の父の会社と自分の父の会社がそんな密な関係だったとは知らず、柚子は内心驚いていた。
「けれど15年前のある日、世間を揺るがす大事件が起こってね」
奈緒子の声が徐々に厳しいものに変わり始めた。
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