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「私が許せないのはね。その後、成瀬が全く橘に手を貸さなかったことよ。
少しでも人間の心があるなら、ペナルティー空けに少しでも仕事を回すなり何なり出来たはずなのに。
………成瀬は完全に橘と手を切ろうとした。
利用するだけ利用して、利用価値が無くなった途端に見捨てたのよ」
奈緒子は横を向いてふーっと煙を吐き出した。
「成瀬に潰された企業はうちだけじゃないし、この業界では珍しいことじゃないって言ってしまえばそれまでだけど。
………結局そうやって他を踏み付けても、のし上がって生き残っていく者が強いのよね。
ま、勝てば官軍てやつよ。
今の成瀬を見ればわかるでしょ。
私達みたいな弱者の上に胡座かいて、堂々と頂点に君臨してるじゃないの」
最後は嘲笑混じりに奈緒子は言葉を結んだ。
柚子は黙ってカップを見つめる。
はっきり言って談合や入札など、専門的すぎて事件の概要はよくわからなかったが、ただ一つわかったことといえば。
証の父が自分の父を裏切り、陥れたということ──……。
「…………あなたが今一緒にいる人は、そんな男の血を引いているのよ」
奈緒子の言葉に柚子はハッと顔を上げた。
「今の話を聞いてもまだ、成瀬の息子と一緒にいられる?」
「………………」
柚子は返事に窮し、ただ奈緒子の顔を見つめ返す。
頭の中が真っ白で、今は何も考えることができなかった。
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