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「もしかして、三千万キャッシュで用意したのって……成瀬 証なの?」
「………………」
柚子は無言で頷く。
「………借りたの?」
「………ううん。雇われたの」
奈緒子は目を丸くした。
「雇われた?」
「うん」
柚子は証と再会した日のことをぼんやりと思い返した。
「借金を返す為に私、キャバクラで働いてて……その時偶然客として来てた証と再会したの」
「……………」
「私の現状を知って、だったら三千万で買ってやるって。……奴隷として雇ってやるって……」
それを聞いた奈緒子は不快げに表情を歪ませた。
「……………奴隷ですって?」
「でも、違うの」
柚子は勢いよく顔を上げた。
何故か目頭が熱くなってくる。
「口ではそんな風に言うし、意地悪だけど……でも、実際はお手伝いさんみたいなことしてるだけで……。
家事さえちゃんとしてれば、後はほとんど自由にさせてくれてるし、はっきり言って生活は前よりずっと贅沢なの……」
震えがちに言う柚子を奈緒子はしばらく黙って見つめていたが、やがてフンと鼻を鳴らして髪を掻き上げた。
「生意気なガキね。罪滅ぼしのつもりかしら」
罪滅ぼしという言葉を耳にし、柚子の心臓がドクンと脈打った。
(…………罪滅ぼし………)
あの夏の日、是枝が柚子に言った言葉が蘇る。
証が柚子を傍に置いているのは、罪滅ぼしなのではないかと。
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