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しばらくして、柚子は静かに首を横に振った。
「私と証は、そんな関係にはなりえないの。私と証とじゃ、立場が違いすぎる」
柚子はゆっくりと涙を拭った。
「好きになっても……どうしようもないの」
言った後で、柚子の胸にツキリと針が刺さったような痛みが走った。
柚子はぎゅっと胸元で手を握る。
そう、自分と証に未来なんかない。
2月までの付き合いだと、はっきりと宣言されてしまっている。
自分との未来のない相手を、好きになったってどうしようもない。
そんな柚子の様子を見た奈緒子は、大きな溜息をついた。
「悪いことは言わないわ。今すぐ成瀬の家を出なさい」
「……………え?」
「私の所に来たらいいわ。今はホテル住まいだけど、近々家を買って……一緒に暮らしましょう」
柚子はうろたえて母の顔を見つめる。
「で、でも………」
「成瀬の息子に三千万を返せばいいんでしょ」
奈緒子は事もなげにそう言った。
柚子は言葉を失う。
(証の……家を……出る?)
そうして、二度と会わなくなって。
苦しかったことも、楽しかったことも、全てを思い出として?
抱きしめられたことも、キスをして胸を弾ませたことも、ケンカをして泣いたことも、お酒を飲みながらバカ話をして笑い合ったことも。
ぜんぶ、ぜんぶ。
ここで終わりにしてしまう……?
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