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カフェを出た柚子はマンションへ向かいかけてふと足を止めた。
時間は4時を回ったばかり。
まだ買い物も済んでいない。
もしかしたらじきに証が帰ってくるかもしれなかった。
だが、何故か足がマンションへ向こうとしない。
(………どんな顔で、証を出迎えればいいんだろう……)
会ってまず何を言えばいいのかもわからなかった。
自分達があんなに苦労したのは、全てが成瀬のせい……。
会社の経営が傾き、生活も苦しくなって、そのせいで母は出て行って……。
父は朝から晩まで働き詰めで。
更には体を壊し、まだ47才という若さでこの世を去った。
そうして自分は多大な借金を背負い、水商売を経て、あげくには風俗にまで足を踏み入れそうになった。
その全ての元凶が、証の父の裏切りのせいなのか……。
強い眩暈が再び柚子を襲う。
たまらず道の端に寄り、たまたま傍にあった街路樹に手をついた。
(………怖い。……証に会うのが怖い。お母さんからじゃなくて、証の口から本当のことを聞くのが怖い……)
証にそれを認められてしまったら……。
もう全てが崩れ去ってしまう気がする……。
(お母さんは当事者だから……話したこと全部が本当かわからない……)
だが、証とて成瀬の人間だ。
自分の父の罪など、素直に認めるのだろうか。
(わからない。……本当のことが知りたい……)
歪む視界の中で、柚子はふらふらとバッグの携帯に手を伸ばした。
そうして萎えそうになる気持ちを奮い立たせながら、ある人物の携帯番号をプッシュした。
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