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電話を切った五十嵐は急いで資料を棚に戻した。
順番がバラバラだが、また明日片付ければいい。
自身のデスクに戻り、上着と鞄を引っつかんで、まろぶように地下駐車場へと走った。
証のマンションへ向け車を走らせながら、ざわざわとした胸騒ぎが五十嵐の胸を襲っていた。
(また証と、何かあったのか?)
それにしては証は朝から大学へ行っているはずだし、昨日のケンカだとしてもこんな時間に電話をかけてくるなんておかしすぎる。
得体のしれない不安が込み上げ、五十嵐は規制より早いスピードで車を走らせた。
そのせいか予定より10分は早くマンションに到着したが、驚いたことに既に柚子が道路脇に佇んでいた。
五十嵐の車を目に留め、ホッとしたような表情を見せる。
停車し、助手席のドアを開けると恐縮したように柚子が中を覗き込んだ。
「すみません、急に無理を言って……」
「いえ、大丈夫ですよ。どうぞ乗ってください」
五十嵐に促され、柚子は車に乗り込んだ。
柚子がシートベルトをしたのを見届けてから、五十嵐はためらいがちに口を開いた。
「何か、お話ですか?」
「………はい、あの……少しお窺いしたいことが……」
そこで柚子は五十嵐の顔を見上げた。
柚子の瞳は不安げに揺れ、顔色もどこか冴えない。
五十嵐は戸惑いを押し隠し、少し微笑んだ。
「じゃあ、どこか店に入りますか」
「あ、いえ。誰もいない所がいい、です。できたらここから少し離れて、このまま車の中で……」
「…………わかりました」
五十嵐は頷き、静かに車を発進させた。
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