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車を走らせながら、五十嵐は不思議な気分だった。
あの日以来、次に柚子に会う時はどんな顔をして会うべきかと悩んでいたのだが。
柚子のいつにない様子に、そんなことはどこかへ吹き飛んでしまった。
柚子のほうも、今はそのことはすっかり頭にないようである。
5分ほど車を走らせた五十嵐は、ある国有公園の駐車場に入った。
平日のこの時間、広い駐車場にはまばらに車が停車しているだけだった。
辺りは徐々に薄暗くなり始めている。
車を停めた五十嵐は、先程から黙りこくっている柚子に目を向けた。
ゆっくりとシートベルトを外す。
「何か、飲み物買ってきましょうか」
「…………いえ」
柚子は弱々しく首を振った。
そうして何かを訴えかけるように五十嵐の顔を見上げた。
五十嵐は少し微笑んでみせた。
「気持ちが落ち着いてからでいいですよ。僕は時間は大丈夫ですから、話したくなったら話してください」
「………………」
柚子は少し驚いたような表情を見せた後、唇を噛んで俯いた。
ぎゅっと握り締めた手は、小さく震えている。
しばらくの沈黙の後、柚子はポツリと口を開いた。
「五十嵐さんは…証が私を三千万で買った理由を、ご存知ですか」
「……………え」
予想外の質問に、五十嵐はわずかに面食らった。
柚子は俯いたままである。
「それは……柚子さんが前に言ってた通り、幼稚園の頃に虐められていた復讐なんじゃないんですか」
「………………」
柚子はそこでようやく顔を上げて五十嵐を見つめた。
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