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柚子の瞳が大きく揺らいだ。
五十嵐はようやく気持ちが落ち着き始め、一つ大きな息を吐き出した。
そうして物憂げな柚子の顔を見つめた。
どこで聞いたのかはわからないが、柚子が15年前の事件のことを知ってしまった……。
おそらく柚子自身その真実を知ったばかりで、今はただ戸惑いや動揺といった感情に支配されているといった印象だった。
(……そのまま証に会うのが怖くて、俺に連絡してきたのか……)
今まで何があっても、柚子から五十嵐を頼ることはなかった。
だが今回は、誰かを頼らずにはいられなかったらしい。
「…………罪滅ぼし……なんでしょうか」
柚子がボソッと呟いた。
「え?」
「証が私を買ったのは、その事件で成瀬グループが私の父を陥れたことに対する、罪滅ぼしなんでしょうか」
「………………」
五十嵐は黙って窓の外に目を向けた。
日はすっかり沈み、辺りは暗闇へと変わりつつある。
「………わかりません。でも、僕は証のことをよく知っていますが、証は昔のことをいちいち根に持って復讐を考えるような男ではありません。……ましてやその相手に金を使ったり、一緒に暮らしたりなんてことは、有り得ません」
「………………」
「だから僕は始めから、柚子さんを買った理由は復讐以外に何かあるのだろうとは、思っていました」
柚子はぎゅうっと両拳を握り締めた。
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