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「じゃあ…じゃあどうして……」
柚子はキッと五十嵐の顔を見上げた。
「どうしてわざわざ復讐だなんて言って、憎まれ口たたいて、奴隷として私を買うなんて……。
そんな言い方しなければ、私だってもっと、素直に証に向き合えたかもしれないのに…っ」
「………本当に、そうですか」
五十嵐はゆっくりと窓の外から柚子に目を転じた。
「……………え?」
「始めから真相を話して、罪滅ぼしをしたいからと言ったら……あなたは素直に証の好意に甘えられましたか?」
「………………」
「自分達を不幸にした成瀬の世話になんかならないと……拒絶したかもしれないでしょう」
柚子は何も答えられなかった。
五十嵐の言う通りかもしれないと、そう思ったからだ。
今と違って、証に対して何の思い入れもないその時に事件の話を聞いていたら……死んでも証の施しを受けようとは思わなかったかもしれない。
「けれど事件のことを黙ってただお金だけを出したら……きっと柚子さんは証に感謝したでしょう。
それはきっと証にとって不本意だったのだと思います。
あなたの父親の会社が倒産し、柚子さんが借金の肩代わりをする羽目になった元凶は全て成瀬にあるのに、感謝などされたくはなかった。
………もしかしたら、憎んですら欲しかったのかもしれません。
だからわざわざ、復讐だなどと嘘ぶいたのではないかと……僕はそう思っています」
五十嵐の話が終わると同時に、柚子の頬を涙が滑り落ちた。
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