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「証との生活を思い返してみてください。……証は柚子さんに、復讐をしましたか?」
「………………」
「確かに子供でわがままで、自分の思い通りにならなければすぐに不機嫌になる融通のきかないところはありますが……。柚子さんのことはとても大切にしているように、僕の目には映りましたよ」
柚子が五十嵐の顔を見上げると、五十嵐は小さく頷いて微笑んだ。
その笑顔を見て、柚子の目からは涙がとめどなく溢れ出した。
………そんなこと、とっくに気付いていた。
不器用ながら、証が自分を大切にしてくれていること。
復讐なんて口ばかりで、柚子を傷つける気なんて毛頭ないこと。
ひどいケンカをした後は、いつも証のほうが傷ついたような顔をすること。
「…………証を、憎いと思いますか」
ビクッと柚子の体が揺れた。
柚子は涙の溜まった目で五十嵐を見つめる。
「………何かを憎みたいと思う気持ちは、あります。罪もない父が犯罪者に仕立て上げられ、私達が味わった苦しみはどうやったって、拭えない。
……でもそれが、証のお父さんに対してなのか、成瀬の家ごと全てなのか、よくわかりません……」
柚子は今の正直な気持ちを口にした。
母の話を聞いて、憎悪とも言うべき、どす黒い感情が確かに自分の中に渦巻いている。
だがそれは、果たして何に対してなのだろうか?
「…………では、僕のことも憎いと思いますか」
不意に五十嵐が口にした言葉に、柚子は驚いて息を止めた。
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