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「……………え?」
「僕も、10数年前までは成瀬の名を名乗っていたれっきとした成瀬の人間です。証の父親とも色濃く血が繋がっている。……それどころか、証が生まれていなければ、成瀬グループを継いだのは僕だったかもしれない」
五十嵐はそこで苦痛げに顔を歪ませた。
「…………僕を、憎いと思いますか」
考える間もなく、柚子は思い切り首を横に振っていた。
「い、五十嵐さんのことが憎いなんて、有り得ません。………これからだって、ずっと、ずっと」
嗚咽に喉を詰まらせながら柚子が言うと、五十嵐は少し笑った。
手を伸ばし、柚子の涙を拭う。
「………だったら、おのずとわかるでしょう? 自分の証に対する思いが」
「………………」
柚子はヒクッとしゃくりあげる。
「証を憎んでしまうかもしれない……そう思うことが、怖かったんでしょう?」
「………………っ」
柚子はたまらず五十嵐の胸にしがみつき、激しく嗚咽した。
五十嵐はそっと柚子の背中を撫でる。
(…………バカ。証のバカ。憎まれ役まで買って、三千万なんか出して、バカよ)
────罪を犯したのは証ではないのに。
何故、証が罪滅ぼしをしなくてはならないのか。
事実を柚子にひた隠し、口では意地悪なことを言いながら……。
柚子と相対しながら、その心はいつも呵責の念に耐えていたのだろうか。
………その時、場違いな軽快なリズムが柚子のバッグから鳴り響いた。
携帯の着信音だった。
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