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始まりは思いがけない再会からだった。
12月に入ると、街中どこもかしこもクリスマスムード一色になる。
柚子がほぼ毎日利用しているマンション下の高級スーパーにも大きなツリーが飾られ、店内に流れる曲もジングルベルに変わっていた。
このスーパーの客の殆どはマンションの住民である。
そのせいか皆どこか紳士然淑女然として品があり、セレブの雰囲気を醸し出している。
芸能人を見かけることもごく稀にあった。
しかしこの日はいつもより一際目立つ女性に柚子は遭遇した。
(今日は証は大学だから……多分帰りは早いんだよね……)
カートを押しながら、柚子は今晩のメニューを思案していた。
アルコールのコーナーに差し掛かった時、ワインを物色している女性が目に飛び込んできた。
思わず柚子は立ち止まる。
派手な毛皮のコート、ボリュームのある栗色の巻き毛、顔の半分はありそうな大きなサングラス。
(………うわ、叶姉妹かと思った……)
それ程その女性は華やかで、目を引いた。
柚子の視線に気付いたのか、その女性はふっと柚子を振り返った。
柚子はとっさに目を逸らし、カートを押して女性の横を通り過ぎようとした。
(やば。ジロジロ見すぎたかな)
その女性は柚子をゆっくりと目で追ってきた。
………といっても、瞳の動きはサングラスのせいでわからなかったのだが。
それでも視線を感じ、逃げるように足を早めたその時だった。
「……………柚子?」
思いがけず名を呼ばれ、柚子はピタッと足を止めた。
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