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二人はそっと体を引き離す。
名前を見なくても誰からの電話かはすぐにわかった。
柚子はのろのろと携帯を取り出し、着信音が止むと同時に電源を切った。
「いいんですか?」
「………どうせ怒鳴られるだけですから。怒られるのは帰ってから一回だけでいいです」
柚子は涙を拭いながら少し笑った。
五十嵐は時計に目を向ける。
真っ暗になっていたので随分遅い時間なのかと思ったが、意外にもまだ5時半だった。
「あの、五十嵐さん」
「はい」
「今日、五十嵐さんと会って話したこと、証に内緒にしててもらっていいですか」
柚子がそう言うと、五十嵐は笑って頷いた。
「わかりました」
「………すみません」
謝りながら柚子が俯いたのを見て、五十嵐はクスクス笑い出した。
柚子は怪訝そうに五十嵐を見上げる。
「五十嵐さん?」
「いえ。なにげに僕達って、二人だけの秘密が多いですよね」
「…………え、あ」
言われて柚子は確かにそうだな、とぼんやりと思った。
二人だけの夜景デート、五十嵐の家で二人で一夜を過ごしたこと。
そして………。
突然、あの日五十嵐とキスをしようとした事実が脳裏に蘇り、柚子は慌てて五十嵐から目を逸らした。
(うわーっ、色々あってすっかり忘れてたけど、五十嵐さんと会うのあれ以来なんだ……)
五十嵐の様子を見ていると、五十嵐もそのことはあまり気にしていないようだが……。
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