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五十嵐は窓から少し空を見上げた。
空に雲はかかっていないが、街が明るすぎるせいか星も見えない。
「もう真っ暗ですね。そろそろ帰りましょうか。証も心配してると思いますよ」
「……………はい」
五十嵐は柚子に目を向け、微笑んだ。
「落ち着いて、証と会えそうですか」
「……………」
柚子は黙って頷いた。
五十嵐は体ごと柚子に向き直る。
「今はまだ、多分割り切れないことも沢山あると思います。時間がたてばまた、今とは違う感情が湧いてくることもあるでしょう。……でも、決して一人で悩まないでください」
柚子は驚いて五十嵐の顔を見つめた。
五十嵐の瞳は真剣で、真っ直ぐに柚子を捉えていた。
「忘れないでほしいのは、証も僕も、柚子さんには苦しんでほしくないということです」
「……………」
「おそらく証は、あなたが15年前のことを知って、自分が憎まれることよりも……あなたがそのことで苦しむことのほうが辛いと思うんです。
だから……思い悩んだ時は、すぐに頼ってください。
証に話しにくいことなら、僕がいつでも力になりますから」
五十嵐が話し終わる前に、再び柚子の目がうるうると涙で潤み始めた。
「…………五十嵐さん………」
「あー、ほら。もう泣かないで」
慌てた五十嵐はハンカチを取り出し、柚子の涙を拭いた。
柚子はハンカチを受け取り、それで目元を強く押さえた。
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