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「あ、ありがとう、ございます。五十嵐さんに会えて、少し気分が楽になりました。……きっとあのまま帰って証と会っていたら……私、証に何を言ってたかわかりません……」
ヒクヒクと過呼吸気味に柚子は言った。
五十嵐はニコッと微笑む。
「急にお電話して、迷惑かけて、すみませんでした」
「いいえ。今回は真っ先に頼ってくれて、嬉しかったですよ」
軽く息をつき、五十嵐はハンドブレーキを下ろした。
「では、帰りましょうか」
「…………はい」
柚子は苦しい息を整えるように何度も深呼吸を繰り返した。
五十嵐は車を発進させる。
行きと違い、重苦しい空気は払拭されていた。
マンションの下に着き、五十嵐は静かに車を停めた。
「それじゃ、柚子さん」
「………はい」
柚子はシートベルトを外してから、何か物言いたげに五十嵐を見上げた。
「あ、あの……」
「はい?」
そこで柚子の顔がカアッと真っ赤に染まり、逡巡するように俯いた。
「あの…、あの、頭、撫でてもらって、いいですか」
「………………」
五十嵐は一瞬目を丸くし、直後プッと吹き出して頷いた。
手を伸ばし、柚子の頭に手を乗せる。
そうしていい子いい子をするようにその頭を何度も撫でた。
「頑張って」
それを聞いた柚子はようやく顔を上げ、くしゃくしゃの顔で微笑んだ。
(………まぁいいか。今はお父さん代わりでも……)
マンションへ戻っていく柚子の背中を見つめながら、五十嵐はふっと苦笑した。
次に会った時は、柚子へ想いを伝える覚悟もしていたのだが。
完全に状況が変わってしまった。
柚子と証が今からどんな話をするのか……。
五十嵐の胸を一抹の不安が通り過ぎていった。
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