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「………証……」
「本当だよ」
証は先程とは打って変わって、落ち着いた声でそう言った。
柚子は目を見開く。
「……え?」
「全部、本当だ」
そこで証は自嘲的に笑った。
「お前の父親だけじゃねぇ。自分達が生き残る為に、ありとあらゆるものを踏み台にしてきた。……そうやって成瀬グループはのし上がっていったんだ」
「………………」
こんなにも簡単に証が全てを認めるとは思わず、柚子は何を言っていいかわからなくなった。
証は尚も続けた。
「成瀬グループが犯した談合の罪を、当時下請けだった橘建設に全て被せた。
………お前の親父の会社が倒産したのも、そのせいでお前がキャバクラで働く羽目になったのも……
全て成瀬のせいだ」
最後は静かに、証はそう締め括った。
証は柚子の言葉を待つように、じっと柚子を見つめていた。
先程までの狼狽は消え、今は覚悟を決めたようにその瞳は静かに凪いでいた。
「……始めから、知ってたの?」
「……………」
「知ってて、本当は罪滅ぼしのつもりで私を買ったの……?」
すると証は笑って首を振った。
「何度も言ってるだろ。……お前を買ったのは復讐だって」
「────まだそんなこと…っ」
「………本当に、復讐なんだ」
「……………」
「俺を忘れてたことに対する、復讐」
それを聞いた柚子は眉を寄せた。
「…………え?」
「………俺ってガキの頃、泣き虫で弱っちくてさ」
突然証がそう話し始めたので、柚子は戸惑って口を噤んだ。
証は静かに目を伏せ、膝の上で手を組んで訥々と話し始めた。
「幼稚園の頃は女の子にまでいじめられて、それでも何にも言い返せずに、ただメソメソ泣いてるだけだった。
………そんな俺に毎回『男のくせにしっかりしろ』って喝入れてくる女の子が、同じクラスにいたんだ。
その子はすげー芯のしっかりした子でさ、群れねーし媚びねーし、誰に何言われても、飄々としてた。
羨ましくて……憧れた。
今思えば、初恋だったんだと思う」
柚子は驚いて証を見下ろした。
話の流れで、それが自分のことを言っているのだと薄々気付いたからだ。
「その子にはもう情けねーとこ見せたくなくてさ、強くなってやろうって一大決心したんだ。……でも」
証はそこで一旦言葉を切った。
ゆっくりと柚子を見上げる。
「ある日突然、その子は俺の前からいなくなったんだ」
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