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「小学校の入学式にその子の姿はなくて。
その理由もわからなくて、多分遠くに引っ越したんだろうと思ったけど……胸にぽっかり穴が開いたみたいだった。
せっかく強くなった姿を見せようと思ってたのに…って。
結局、小学校に上がったのを機に泣き虫も治って、同時にいじめられることもなくなって。
その子のことを思い出すことも少しずつ減っていった。
それでもたまに、自分を変えるきっかけをくれたその子のことは『今どこで何してんだろう』ってぼんやりと考えることもあった」
証はまるで独り言のように淡々と話し続けた。
柚子も黙ってそんな証を見つめていた。
「でも、大学行きながら会社立ち上げて、忙殺されていくうちにすっかりその子のことも忘れ去っていって。
………それなのに、ある日接待で連れて行かれたキャバクラで、思いがけずその子と再会したんだ」
証の声は少し懐かしむような声になった。
柚子はあの日のことを思い返す。
有名な若手社長だと聞き張り切って接客したが、驚くほど無愛想な男だった。
「化粧はしてたけど面影がそのまんまだったから、すぐにわかった。
まさか再会できるなんて思ってもみなかったからすげーテンション上がってさ。
勢い込んで名乗ったら……その子は俺のこと、綺麗さっぱり忘れてた」
「……………」
「俺はすぐにわかったのに、向こうは顔を見ても名前を聞いてもピンとこねぇみてーで。
ようやく記憶をほじくり返して、出てきた言葉が『泣き虫証くん』だった」
証はそこで目を閉じた。
「すげー悔しくてさ。
その子の中では俺なんかゼロに等しい存在で、微かな記憶も泣かされてた頼りないガキのままで。
………悔しくて、復讐してやろうと思った。
その子の心に、一生消えない俺の記憶を刻んでやろうって…その時そう決めた。
どんな形でも、忘れられるよりはマシだって思ったから」
目を開け、証は苦笑を浮かべた。
「でも次に店に行ったらその子はいなくて。
あの日みたいにまた突然俺の前から消えたんだ。
………冗談じゃねぇ、このまま別れたら俺はいつまで経っても『泣き虫証くん』のままだ…って。
死んでも見つけ出してやるって、躍起になってその子のこと調べた。
そしてその時……15年前の事件のことを知ったんだ」
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